|
| 梅雨の古刹と雨粒をまとったあじさいの花
|
皆さん、こんにちは!梅雨真っ只中の6月末、いかがお過ごしでしょうか。 雨の日が続くと気持ちが沈みがちですが、この季節だからこそ美しいものがあります。 そう、あじさいです。
雨粒をまとったあじさいの花は、晴れの日とはまったく違う表情を見せてくれます。 しっとりと濡れた石畳や苔の緑と相まって、梅雨の古刹はそれだけで一幅の絵のようです。 バスガイドの仕事をしていると、雨の日のご案内はなにかと大変ですが、 あじさいの季節だけは「雨もまた良いものですよ」と心から申し上げることができました。 お客様も傘を差しながら、「あら、雨だからこそ綺麗ね」とおっしゃってくださることが多く、 この季節のツアーは雨を味方につけてしまうのが一番だと感じています。
ところで、あじさいの名前の由来をご存知でしょうか。 諸説ありますが、有力とされているのは「藍色が集まったもの」を意味する 「あづさい(集真藍)」が転じたという説です。 また、漢字で「紫陽花」と書きますが、実はこれは中国で別の花(ライラックに近い花とも)を 指す言葉だったものを、平安時代の学者・源順(みなもとのしたごう)が誤ってあじさいに 当てはめてしまったといわれています。 つまり「紫陽花」という当て字は、実は1000年以上前のうっかりミスが定着したものかもしれないのです。 これはお客様にお話しすると「えっ、そうなの!」と驚いていただける話のひとつです。
あじさいを愛でる文化は奈良時代にまで遡り、万葉集には大伴家持があじさいを詠んだ歌が 残されています。 ところが面白いことに、その後の平安時代にはあじさいはあまり和歌に詠まれなくなります。 理由のひとつとして、あじさいの花が「色が変わる」ことから「心変わり」を連想させ、 縁起が悪いと敬遠されるようになったとも言われています。 「七変化」という別名を持つあじさいは、咲き始めから散るまでに白・青・紫・ピンクと 色が変化しますが、これが「移ろいやすい」として平安貴族には好まれなかったようです。 なんとも繊細な感性ですね。
現代では、あじさいは全国各地の寺社で愛でられる人気の花となっています。 近畿でその代表格といえば、京都・宇治の三室戸寺(みむろとじ)です。 西国三十三所観音霊場の第十番札所として知られるこの寺には、約1万株のあじさいが咲き誇り、 「あじさい園」には珍しい品種も多く集められています。
三室戸寺の歴史は奈良時代末期の770年頃まで遡ります。 光仁天皇の勅願によって建てられたとされ、平安時代には「御室戸寺」として宮中との 深いかかわりを持ちました。 この寺には少し変わった見どころがあって、境内に「宝勝牛」という石像の牛がいます。 牛の口の中に手を入れて握りこぶしを作ると勝運がつくといわれており、 参拝者が次々と牛の口に手を入れる光景はなかなかシュールで笑えます。 また、蓮の花の形をした「蓮花台」に乗ると良縁・子宝に恵まれるとも伝えられており、 こういった「ちょっと面白い言い伝え」をご案内のひと言に加えると、 お客様がぐっと親しみを持って境内を楽しんでくださいます。
↓三室戸寺のあじさい
広島エリアでは、福山市にある神勝寺(じんしょうじ)が「花の寺」として近年注目を集めています。 臨済宗の寺院でありながら、境内には現代アートの施設「神勝寺 禅と庭のミュージアム」が 設けられており、禅の精神と現代アートが融合したというなんとも独特の空間です。 松の美しい庭園を眺めながら抹茶をいただけたり、参拝後に温浴施設でゆっくりできたりと、 ご年配のお客様から若い世代まで幅広く楽しめるのが魅力です。 「お寺でアート」という意外性が、最近のツアーのお客様にはとても受けが良いようです。
「花の寺」という呼び名は、単に花が美しいというだけではなく、 長い歴史の中で人々が花を供え、花に祈りを込めてきた積み重ねの証でもあります。 雨の中しっとりと濡れた境内に立つとき、 幾百年もの間ここに手を合わせてきた人々の思いが、 花の向こうにほんのりと見えるような気がします。
七夕の季節もやってきますね。 短冊に願いを書く風習は、中国から伝わった「乞巧奠(きっこうでん)」が起源で、 奈良時代に宮中行事として日本に伝来しました。 もともとは機織りの上達を願う行事だったものが、やがて「字が上手になりたい」 「学問が上手くなりたい」へと変化し、現代の「願い事を書く」スタイルに落ち着いたのは 江戸時代のことといわれています。
七夕の笹飾りも、もともとは江戸時代の庶民の間で広まったものです。 1000年以上かけて少しずつ形を変えながら今に至る七夕、 次にお客様と笹飾りを目にしたときに、そっとお話ししてみてはいかがでしょうか。
梅雨の雨音を聞きながら、あじさいの花を愛でる静かな時間を、どうかお楽しみください。
↓雨に濡れるガクアジサイ

(2026.06.27) |
|